BiliBili動画における「鬼畜」と「音MAD」の関係 「鬼畜」=「音MAD」なのか?

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さてこんなネットの僻地まで記事を読みに来てくれている音MADフリークの皆さんの中には、中国版ニコニコ動画(もはや中国版YouTubeと言っても過言ではない規模かも)であるBiliBili動画において、音MAD動画が「鬼畜」と呼称されているという話を聞いたことがある方も多いかと思います。

現在では中華圏においては音MADよりも遥かに認知度が高いであろうこの鬼畜というワードですが、一体どういう経緯で定着し、どのように使われているのでしょうか。日本語でそのあたりの情報がまとまっている記事が無さそうだったので、自分で調べた範囲でまとめてみたいと思います。

注:この記事は中国語の記事や中国音MAD界隈の方に聞いた話を元に書いていますが、もしかしたら私が解釈を間違えている箇所があるかもしれません。間違いがあれば記事のコメント欄やTwitterでご指摘頂ければありがたいです。

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記事サムネ用にOtaku's Adventureの谷恒条野ちゃんの画像を貼っています。別に有名な鬼畜素材というわけではないですが、かわいいので。翻訳がかなり怪しい日本語字幕もあるのでプレイしてみてね。

 

鬼畜」という文字からお察しの方も多いと思いますが、鬼畜の語源はビートまりお氏による東方アレンジ曲「最終鬼畜妹フランドール・S」及び同曲を使った音MAD「M.C.ドナルドはダンスに夢中なのか?最終鬼畜道化師ドナルド・M」(以下、「総本山」とします)から来ています。


 

時代はBiliBili動画が生まれる前に遡ります。総本山が投稿された2008年、ニコニコのようにコメントが流れる中国の動画投稿サイトの1つにAcFunというサイトがありました。

AcFunという名前がAnime Comic Funの略称であることからも分かるように、当時はオタク色が強く、ニコニコで流行った動画はしばしばAcFunへと転載されており、総本山も転載されて非常に高い人気を博しました。

他にも様々な音MADが転載されましたが、当時中国では「音MAD」という概念がほとんど知られておらず、かつ総本山の影響力があまりにも強かったため、転載された音MAD群は総本山のタイトルから取って「鬼畜」と呼ばれ始めました。

「鬼畜」が中国語ではあまり一般的に使われない単語であったことも大きいかもしれません。Baidu汉语などのネット上の中中辞典を「鬼畜」で調べてもヒットしません。もっとも、ACG圏(Anime, Comic, Game, ようするにオタク界隈の通称)においては、日本における「鬼畜キャラ」と同様、残虐であるさまを表す言葉として使われることはあったようです。

 

転載ではない中国産の音MADもAcFun内で作られ始めていましたが、それらのタイトルにもしばしば(最終鬼畜妹を使っていない場合であっても)「鬼畜」の文字が入れられることがあり、「鬼畜」が「音MAD」を意味する言葉として定着していきました。

 

その後2009年6月にBiliBili動画が立ち上げられ、同様にニコニコ音MADの転載や中国産の鬼畜が投稿されるようになりました。BiliBili動画における総本山の動画IDがav106【M.C.ドナルドール・スカーレットはダンスに夢中なのか?】の転載がav107であることからも、いかに当時のACG圏において総本山の影響力が大きかったかが分かります。

www.bilibili.com

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当初はほぼ「鬼畜」=「音MAD」でしたが、音楽に合わせて映像を切り貼りしたものや、面白い会話や動きになるように素材を編集したもの、そして人力VOCALOIDなど、ニコニコでは所謂「MAD」と呼ばれるような動画のほとんどが次第に「鬼畜」に含まれるようになっていきました。

 

また、あまりニコニコに似たものが無い鬼畜文化として「鬼畜調教」というものがあります。

鬼畜調教

もうなんか字面が凄いですね。2019年頃のBiliBiliではアニメ「私に天使が舞い降りた!」が素材として人気でしたが、「わたてんのひなたの鬼畜調教動画大好き!」なんて日本語で言おうものなら即ロリコンクソ野郎の汚名を被ること間違いなしです。

 

もちろん中国語においてはそんなヘンな意味は無いのですが、どんな動画か言葉だけで説明するのは難しいのでとりあえずここの動画を適当にいくつか見てみてください。

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共通点として、どの動画にも歌詞のようなものがあり、セリフ合わせ+メロディーに合わせたピッチシフト(おそうじ戦舗)が基本形となっています。ピッチ変更をあまり行わない鬼畜調教は「○○rap」と呼ばれることもあります。

音素ごとの音声ライブラリを作って原曲の歌詞(もしくは替え歌)を歌わせるのではなく、元のセリフをそのまま乗せる点が人力VOCALOIDとの違いかと思います。

 

リリック(歌詞)、ライム(韻)、フロウ(台詞の合わせ方)が特に重要であるため、ヒップホップに近いジャンルかもしれません。キャラ同士の掛け合いやストーリー性が盛り込まれた音MADユニバース的な動画や、作者がオリジナル曲をBGMとして作っている台詞イントネーション作曲的な動画も多くあります。

そして多分動画内の歌詞がどんな内容になっているのか把握できないと本当の面白さは分からないのだと思いますが、今の私の中国語力ではちょっと理解するのが難しいですね……。

 

一方で、本来の「音MAD」という表記もBiliBiliでは使われてきました。音MADという表記を用いる作者は、ニコニコや初期のBiliBiliの音MAD文化に精通している場合がほとんどであり、使用する素材や作風もそれらの文化に近いものでした。そして淫夢レスリング、エア本といったニコニコ由来の文化をBiliBili内で独自に発展させて行きました。

更には「鬼畜音MAD」なんて表記まで登場しました。

 

 

2012年頃まではBiliBiliには「鬼畜」に関係するカテゴリが無く、これまで挙げてきたいろいろなジャンルの鬼畜が様々なカテゴリ内で渾然一体となっていましたが、2014年に「鬼畜」カテゴリが作られ、更に後には鬼畜カテゴリの中に「鬼畜調教」カテゴリと「音MAD」「人力VOCALOID」カテゴリ等が作られ、区別されるようになりました。

 

鬼畜調教はその時その時の中国インターネット界隈で流行っているものを素材とすることが多かったため、たとえクオリティが悪くても鬼畜調教の方が音MADより伸びることが多く、BiliBiliの新規ユーザーがまず目にする鬼畜は多くの場合鬼畜調教でした。

加えて、ニコニコや昔のBiliBiliを知らない新規ユーザーはそれらのネタを使った音MADを見てもあまり理解できなかったり、これは鬼畜調教の一種だと認識したりしたため、BiliBiliのユーザー数が増えるに従い鬼畜調教の勢力は大きくなっていきました。現在では鬼畜調教の勢力は音MADより圧倒的に大きいです。

 

そして多くのユーザーが「BGMに合わせて音声や映像を編集する動画=鬼畜調教」と認識するようになった結果、本来鬼畜調教とは呼ばないような、セリフ合わせオンリーや音合わせオンリーの動画も鬼畜調教のカテゴリで投稿され始めました。「鬼畜調教」という言葉は、音MADという概念を吸収しつつあるようです。

 

現在BiliBiliでは音MADを投稿する際に「鬼畜調教」「音MAD」のどちらかのカテゴリを選ぶことになりますが、もはや動画内容ではこのふたつはあまり区別されておらず、大抵「自分がどちらのカテゴリに投稿したいか」で選ばれています。

 

ニコニコ音MADやYTPMVの文化をよく知っていて、それらの文脈にある素材や曲で動画を作る人は今でも音MADカテゴリで投稿することが多いようです。

以前中国の音MAD界隈の方に「今でも音MADカテで投稿してる人のほとんどはニコニコの音MAD文化をある程度知ってるのか」と尋ねた時は、「9割5分の作者は知ってる」との答えが返ってきました。

 

 

長々と書きましたがまとめると

  • 「鬼畜」の由来はドナルド総本山
  • 元々「鬼畜」と「音MAD」は同義語だったが鬼畜が指す範囲が広がっていき、日本における「MAD」と同じような様々なジャンルを指す言葉になった
  • 「鬼畜」に含まれる「鬼畜調教」「音MAD」「人力VOCALOID」は多少被る範囲はあるが本来別のジャンルである。しかし、近年鬼畜調教という言葉が広まりすぎた結果音MADの概念も飲み込みつつあり、この2つの区分もだんだん曖昧になってきている

という感じです。いかがでしたか?

音MADカテで活動を続けている中国音MAD作者の方々を今後も応援していきたいですね!

ここまで読んでいただきありがとうございました~再见(ザイジエン)!

 

 

 

参考文献

鬼畜 - 萌娘百科 万物皆可萌的百科全书

鬼畜(视频类型)_百度百科

如何看待B站鬼畜曲的"DSSQ"现象及作品? - 知乎